第5回 日本NPO学会賞受賞作品

林雄二郎賞

  • 『ホームレス自立支援-NPO・市民・行政協働による「ホームの回復」』 山﨑 克明・奥田 知志・稲月 正・藤村 修・森松 長生著 明石書店(2006年9月刊)

研究奨励賞

  • 『イギリス住宅政策と非営利組織』 堀田 祐三子著 日本経済評論社(2005年3月刊)
  • 『ボランタリー活動とプロダクティブ・エイジング』 齊藤 ゆか著 ミネルヴァ書房(2006年1月刊)
  • 『Japan's Dual Civil Society: Members without Advocates』 Robert Pekkanen著 Stanford University Press(2006年7月刊)

審査委員会特別賞

  • 該当なし

総評

選考委員長 青木利元

今回の学会賞には、自薦・他薦を合わせて18の論文の応募があり、選考委員会では予備審査及び本審査での検討・論議の結果、日本NPO学会林賞として一編、研究奨励賞として2つの論文を選定した。

概評

二年ぶりに林賞に該当する論文を得たことに加え、奨励賞に三編を選ぶことができたのは、選考委員会の喜びとするところであった。林賞の選定については、ほとんど異論なくスムーズに進んだが、研究奨励賞については、委員の間で評価が割れ、議論が白熱した。奨励賞該当の三篇はいずれも研究テーマに粘り強く丹念に取り組み、きらりと光る知見をつむぎ出す一方で、論文全体としては構成力にいま一歩、二歩の課題を持っている、というのが委員会の認識であった。奨励賞受賞の論文のうちの2編は、外国の社会を研究対象とする、いわゆる国際研究であった。研究者が他国の社会・制度の分析に取り組むということは、言語などの文化の違いはもちろん資料の収集、インタビューや調査などの困難な問題をクリアする必要があるだろう。こうした困難に果敢に挑戦する研究者が生まれつつあることは、NPO研究の分野に広がりと刺激を与えてくれる。完成度や論旨の納得性で課題はあるものの、チャレンジングな研究に挑み鉱脈を探り当てつつある研究者にこそ奨励賞はふさわしいというのが最終的には委員一同の一致した結論であった。

各書評

『ホームレス自立支援-NPO・市民・行政協働による「ホームの回復」』 山﨑 克明・奥田 知志・稲月 正・藤村 修・森松 長生著 明石書店(2006年9月刊)

山崎 克明、奥田 知志、稲月 正、藤村 修、森松 長生共著「ホームレス自立支援 NPO・市民・行政協働による「ホームの回復』』(明石書店)は、北九州市における公-民の協働によるホームレス支援のプロセスを、多層的な構成で描き出すとともに公-民協働の原則・理念を論考するという、個別の事象からスタートして普遍的真理の探究へといたる知的営みを跡付けた優れた論文である。まず、公-民協働の実践報告は、NPO関係者、研究者、行政の担当者および生活指導や相談を担当する実務者と立場の異なる人々が執筆を担当しているにもかかわらず、論旨およびその流れは一貫しており、見事な構成力を示している。中間に挿入されている調査結果は、ホームレスの実態を丹念に説得力を持って客観的に浮き彫りにしており、報告書に明証性と重みを加えている。協働の理念については、海外の理論を鵜呑みにするのではなく、自らの体験を下に咀嚼・検証した上でおのれの言葉で語ろうとする努力を評価したい。何より本書はホームレス問題を、「ホームの回復」という根源的人間存在のあり方の次元で捕らえおり、その深い立場からの実践報告であるだけに胸を打つものがあった。

『イギリス住宅政策と非営利組織』 堀田祐三子著 日本経済評論社(2005年3月刊)

堀田 祐三子著「イギリス住宅政策と非営利組織』(日本経済評論社)は、英国のhousing associationに焦点を当てて政府の住宅政策の変遷と近年の動向を現地調査を踏まえて跡付けるとともに分析した論考であり、特に英国の住宅政策の変遷を丹念に辿った部分が光っている。課題は、著者が冒頭で述べている「本書が検証したイギリスの問題状況は、日本の住宅政策を考える際に少なからず示唆的であるはずである』という指摘が、論文の中で具体的に言及されていない点であろう。今後は、英国研究からの知見を日本の住宅政策に結びつけ、示唆的提言を行うような論究を期待したい。

『ボランタリー活動とプロダクティブ・エイジング』 齊藤ゆか著 ミネルヴァ書房(2006年1月刊)

斉藤 ゆか著「ボランタリー活動とプロダクティヴ・エイジング』(ミネルヴァ書房)は、退職後の生き方をプロダクティヴ・エイジングとして捕らえ、第1部でボランタリー活動の世界的動きを整理・総括し、第2部で実証研究によって、プロダクティヴ・エイジングの創出要因を抽出しようとしている。海外の先行研究をきちんと整理したうえで研究論文として纏め上げようとする真摯な努力には見るべきものがある。しかし、惜しむらくは、中核概念として提示しようとした枠組みが論文の中で明確にされていないことである。核心部分の究明・構築がこれからの課題であろう。今後の一層の研鑽と精進を期待したい。

『Japan's Dual Civil Society: Members without Advocates』 Robert Pekkanen著 Stanford University Press(2006年7月刊)

Robert Pekkanen著『Japan's Dual Civil Society: Members without Advocates』(Stanford University Press)は、日本で最大の会員数を有する町内会を縦型のassociationと捕らえ、R. Putnamのソーシャル・キャピタル理論に基づく米国のNPOの状況、advocates without membersと対比的に日本の状況をmembers without advocatesと談じたものである。この枠組み設定には、違和感を覚える人は少なくないだろう。町内会はassociationではなく、地縁組織と考えられるからである。こうした疑問点が見られる論文ではあるが、多くの日米の文献を読み込み、関係者へのインタビューを重ねるなど、筆者の探求と努力には敬服の念を禁じえない。NPO法成立の政治力学の分析・記述の部分などは文献的価値が高く、渾身の力作と言えよう。

その他の作品

賞の対象とはならなかったが、候補作として審査委員会で検討した論文は次のとおりである。

  • 『私のだいじな場所-公共施設の市民運営を考える-』 協働→参加のまちづくり市民研究会著(市民活動情報センター・ハンズオン埼玉)
  • 『中国地域におけるNPO法人の現状と課題』中国電力株式会社エネルギア総合研究所著 (中国電力エネルギア総合研究所)
  • 『Strategic Management Between Company and Nonprofit Organization: Marketing Channel Evolution』大驛 潤著(Cuvillier Verlag: Germany)
  • 『トランスフォーマティブ・カルチャー:新しいグローバルな文化システムの可能性』川崎 賢一著(勁草 書房)
  • 『日本のNPO史-NPOの歴史を読む、現在・過去・未来』 今田 忠編著 (ぎょうせい)
  • 『ボーダレス化するCSR-企業とNPOの境界を超えて-』 原田 勝弘・塚本 一郎著 (同文館出版)

次年度も、意欲的で内容豊かな論文が数多く寄せられることを期待したい。