第16回日本NPO学会賞受賞作品/年次大会優秀発表賞(第20回年次大会)

林雄二郎賞

  • 『市民社会論―理論と実証の最前線』 坂本 治也 編 法律文化社(2017)

優秀賞

  • 『現代中国のNPOセクターの展開』 兪 祖成 山口書店(2017)
  • 『市民立法の研究』 勝田 美穂 法律文化社(2017)

審査委員会特別賞

  • 『広がる協働~企業&NPO 272事例のデータ分析』 岸田 眞代 サンライズ出版(2016)
  • 『The state of nonprofit sector research in Japan』 岡田彩・石田祐・中嶋貴子・小田切康彦 Brill (2017)

1 選考経過と結果

選考委員長 新川達郎/ 2018年4月30日

日本NPO学会賞選考委員会におきましては、第16回日本NPO学会賞候補作品について審査を行い、以下のとおり、学会賞林雄二郎賞1点、優秀賞2点、審査委員会特別賞2点の合計5点を2018年度の受賞作品とし選考いたしましたので、ご報告申し上げます。
なお、第16回日本NPO学会賞への応募作品は、2016-2017年度(暦年)に刊行されたものが対象であり、13点の応募がありました。その中から、選考委員会において厳正に審査を行い、慎重に協議を行った結果、この5点が学会賞各賞受賞にふさわしい作品との結論に至りました。
また、選考委員が執筆者となっているなど利害関係が認められる作品が一部にありますが、当然のことながら当該選考委員はその選考には一切かかわらないこととしてまいりましたことをお断り申し上げます。

2 選考委員会における受賞作選考について

選考委員会における各授賞作品についてその推薦理由を概略ご紹介いたします。なお同一の賞に複数の作品が授賞されている場合については、応募の受付順による紹介であることを申し添えます。

日本NPO学会賞林雄二郎賞(林賞)には、「坂本治也編 『市民社会論―理論と実証の最前線』 法律文化社 2017年2月刊行」が選ばれました。市民社会に関する今日的な論点を踏まえて、幅広く総合的に論じた作品として高く評価されました。政治学・法学・経済学など、NPO論を含む14人の専門家による多様な学術的視点から先行研究を紹介し理論的・実証的に解明する試みであり、市民社会の理論とその構成要素さらにはそれがもたらす社会的帰結を体系的に論じています。異分野の多数の研究者による学際的な共同作業として編纂された労作であり、林賞にふさわしいと考えました。

日本NPO学会優秀賞(優秀賞)には、「兪祖成著 『現代中国のNPOセクターの展開』 山口書店 2017年4月刊行」が選ばれました。日本語で執筆された著者の博士論文をもとにした著書ですが、現代中国のNPOセクターについて、歴史・文化軸をふまえて、政治システムの2つのベクトルの枠組み、特に共産党政権による支配と統制の観点から解明しようとした意欲的作品であることが評価されました。断片的な情報に偏りがちな中国のNPOセクターの現状についての体系的な研究としての価値もあると考えました。

同じく日本NPO学会優秀賞(優秀賞)には、「勝田美穂著 『市民立法の研究』 法律文化社 2017年2月刊行」が選ばれました。児童虐待防止法、性同一性障害者特例法、発達障害者支援法、自殺対策基本法、風営法改正を事例に、従来不分明であった市民立法の立法過程や法制化促進の要因として政権交替や政治改革による機会構造の変化、また制約要因である政治家との関係性を丹念に分析し、今後の日本におけるNPOのアドボカシーの成立条件を解明しています。市民立法と政策提言を考える上で意義が大きいと評価できます。

日本NPO学会賞審査委員会特別賞(特別賞)には、「「岸田眞代編著 『広がる協働~企業&NPO 272事例のデータ分析』サンライズ出版 2016年2月刊行」が選ばれました。「パートナーシップ・サポートセンター」の「パートナーシップ大賞」を振り返り、受賞例を改めて紹介し分析しており、活発で充実したNPOの実践報告ともなっています。NPOと企業の協働について11年間で272事例を集め、モデルとなる事例を紹介する実践報告を取りまとめて広く普及させようとしている点も評価できます。

同じく日本NPO学会賞審査委員会特別賞(特別賞)には、「岡田彩・石田祐・中嶋貴子・小田切康彦著 『The state of nonprofit sector research in Japan』  Brill  2017年10月刊行」が選ばれました。日本の非営利セクター研究について、先行研究文献を広くかつ丹念に渉猟し、調査研究の成果とその範囲を明らかにしたレビュー論文集です。研究の発展、接近方法、関連する政治や法制度、協働や運動など多岐にわたる研究を整理し、英文ではおそらく最初の日本のNPO研究の総括を公刊した意義は高く評価できます。

3 受賞作以外の応募作品について

授賞作品以外の8作品についてご紹介いたします。それぞれに優れた作品であり、一部委員からは受賞にふさわしいとのご意見があった作品もありましたが、選考委員会全体の協議の結果として今回は受賞にはいたりませんでした。力作ぞろいであることから、以下、応募受付順位に従って、簡単に紹介させていただきます。

「岡部光明 「主流派経済学の 「失敗」 とその対応」 明治学院大学「国際学研究」第51号 2017年10月」は、合理的経済人モデルへの疑問から個人の幸福と社会的厚生への新たな視点を探求した著者の新著のエッセンスを明らかにしています。個人の深い幸福の達成には政府・市場・NPOの3部門のモデルによる理解が必要だという興味深い主張があります。

「坂本治也 「政府への財政的依存と市民社会のアドボカシー ―政府の自立性と逆U字型関係に着目した新しい理論枠組み―」ノンプロフィット・レビュー 17巻1号 2017年6月」は、NPOの政府への財政的依存がアドボカシー活動を抑制するという規範理論を、日本の事例から定量的に検証し、促進と抑制の局面がある逆 U 字型の関係を発見したとする興味深い研究です。

「善教将大/坂本治也「何が寄付行動を促進するのか―Randomized Factorial Survey Experimentによる検討―」公共政策研究 17号 2017年11月」は、これまでの“寄付の定説”とは異なり、寄付確率が高くなるのは、1人あたりの寄付金額表示額が少なく、物的・金銭的返礼をしない場合、また金額が高くなるのは、NPO法人以外で控除対象にできる場合などとの新たな知見が提示されています。

「澤村明/田中敬文/黒田かをり/西出優子著 『はじめてのNPO論』 有斐閣 2017年4月」は、NPOの入門書として編まれたものです。なぜNPOを学ぶのかから始めて、定義、社会的必要性、法制度、行政や企業との関係、災害時の役割、社会的企業、NPOマネジメント、資金調達、そして最終章はNPOをつくってみようとなっています。事例やショートストーリーを含めて初学者には好適と思われます。

「高橋博樹『NPO ゲーム 1st stage』特定非営利活動法人テダス 2017年6月」は、NPO の立ち上げ検討から事業の実施、法人格の取得など、団体設立のプロセスを、「すごろくゲーム」として体験できるボードゲームです。「地域や社会のために何かやりたい。けれどやり方が分からない」といった人を対象に、親しみやすいゲームを通じてNPOへの理解を深めるには非常に優れた興味深い作品です。

「岡山県社会福祉協議会監修 竹端寛・尾野寛明・西村洋己編著『「無理しない」地域づくりの学校-「私」からはじまるコミュニティワーク』ミネルヴァ書房 2017年12月」は、福祉の制度や政策の枠組みを超えて、コミュニティワークという本来の福祉を担う人づくりを目指した活動をテキストにしたものです。「無理しない」範囲で「何とかする」地域づくりや担い手づくりを目指した興味深い著書です。

「片桐恵子著 『「サードエイジ」をどう生きるか-シニアと拓く高齢先端社会』東京大学出版会 2017年8月」は、高齢者の社会参加を主題とし、その社会関係、学習、活躍の場などを論じています。日本の高齢者の現状やその社会参加の課題について、シニアとNPOの関係などを含め多面的に検討されています。大変読みやすく、一般の読者にも共感を呼ぶ好著と思われます。

「中尾公一著 『震災復興過程の組織間関係の形成と維持-公共・非営利領域を対象に-』東北大学大学院経済学研究科博士論文 2017年2月」は、東日本大震災被災地における被災地コミュニティの復興過程について、学際的な視点で研究した労作です。行政、NPO、住民団体の組織間関係を、インタビュー調査による質的な調査分析に基づき説得的に描き出している点は、学術的に極めて高く評価できます。

年次大会優秀発表賞(第20回年次大会)

  • 岡田彩「NPOが重視すべき広告の構成要素とは?インターネットバナーを用いた実験から」
  • 佐々木秀之・桃生和成・高橋結「公共施設の住民参加による整備プロセスと運営への影響の検証―利府町まち・ひと・しごと創造ステーションtsumikiを事例に―」