王 怡寧
2025年4月23-25日にフィリピン・セブで開催されたISTR(International Society for Third-Sector Research)の地域カンファレンスである13th ISTR Asia-Pacific Regional Conferenceに参加してきました。
大会のテーマは、“Civil Society’s Role in Sustainability: Social, Economic Development, and the Environment”であり、アジア太平洋地域における市民社会組織(CSO)が持続可能性の実現において果たす役割について、多角的な視点から議論が行われました。ISTR開催報告によれば、20ヵ国以上から125名を超える参加者が集まり、80本以上の研究報告が実施されました。
本報告では、大会3日間にわたる自身の研究発表の概要、参加した関連イベントの紹介、ならびに学会参加を通じて得られた感想について振り返ります。

(著者撮影)
研究発表の概要
今回発表した内容は、まちづくり・まちおこし分野の寄付行動との比較を通じて、災害支援分野における個人寄付者の特性を明らかにすることを目的とした実証分析でした。自然災害が多発する日本では、災害復興や地域活性化を支える主体として、NPOやボランティア団体などの市民社会組織(CSO)が重要な役割を果たしており、それらの活動を支える資金として寄付金は不可欠な存在です。しかし、発災直後には一時的に寄付が増加するものの、復興の長期化に伴い資金確保が困難となる点が課題として指摘されています。そこで本研究は、分野間の差異に着目することで、災害後の一時的な関心に基づく寄付行動を、平時における継続的な寄付へと転換させる可能性を検討し、復興の長期的資金確保とまちづくり・まちおこしの推進の両立に資する知見の提示を目指しました。
分析の結果、金銭寄付手段の影響が確認されました。災害寄付では、募金箱やインターネット、電子マネー決済など利便性の高い手段が正の効果を示した一方、まちづくり・まちおこし分野では、手渡しのような対面的で信頼性の高い手段が重視される傾向が見られます。また、寄付の捉え方に関しては、「未来社会への投資」という長期的な視座は、持続的な地域発展を志向するまちづくり・まちおこし分野の寄付行動を促進するのに対し、災害寄付は緊急支援への即時的関心に強く依存する傾向が明らかとなりました。さらに、災害分野では、寄付による達成感といった内的なインセンティブよりも、他者への直接的影響や社会的意義が重視される可能性が示唆されています。これらの結果は、支援効果の可視化やフィードバックの提供など、寄付金の有効性を実感でき仕組みの重要性を示しています。加えて、遺贈寄付意向と災害寄付意向との間に正の関係が得られることから、災害支援が「不確実な将来に対するリスク回避」という意識と関連している可能性も示唆しています。以上の知見は、分野特性に応じたNPOの資金調達戦略に新たな示唆を提供するものと考えています。
初めての国際学会での研究報告であり、言語面での困難にも直面しましたが、多くの方々から温かいサポートや励ましに支えられ、貴重なご助言やコメントを頂戴する機会となりました。心よりありがとうございました。

(筆者が参加したパネルセッション。石田祐先生撮影)
イベント参加
今回の大会では、パネルやラウンドテーブルに加え、セブ州政府やファンデーションの協力のもと、参加者にCultural ShowおよびCultural Tourも企画されました。
皆さんはCebu Capital Buildingを訪問し、Gala Dinnerでフィリピンの伝統料理を味わいながら、地元のパフォーマーによるフィリピン文化を生かした情熱的で華やかな舞台を鑑賞しました。
ディナーの場において他の研究者との対話を通じて、目の前の文化的出来事を単なる体験として受け止めるのではなく、それを学術的な問いへと昇華させていく研究者の思考力に深い感銘を受けました。文化や習慣の違いに対して感覚的に反応するのではなく、その背後にある歴史的背景や政治的文脈、社会構造との関連を踏まえて考察する姿勢に触れ、研究者としての視野の持ち方について大いに学ぶ機会となりました。

(Cultural Show。筆者撮影)
また、2日目のセッション終了後には、参加者の皆さんがISTRのロゴをあしらったオリジナルTシャツに着替え、バスに乗り込んで、まるで団体旅行のような雰囲気の中でCultural Tourに向かいました。
Cultural Tourでは、Kabilin Centerおよび Casa Gorordo Museumを訪問し、地域の歴史や生活文化を通じ、文化と社会発展の関係性が丁寧に説明されました。Kabilin Centerでは、フィリピンにおける文化発展の概要が紹介されました。また、Casa Gorordo Museumは19世紀に建てられた民家邸宅であり、その建築様式や居住空間、展示されている生活用品などを通して、フィリピンにおける植民地時代から近代社会への移行期にかけての社会構造や文化の変遷を知ることができます。建物はセブの伝統的住宅様式である「balay nga tisa」の特徴を色濃く残しており、1980年に博物館として公開されました。現在では、セブの文化的アイデンティティを象徴する存在となっています。
同じアジア太平洋地域に属していても、地理的・文化的・政治的環境には共通点と相違点の双方が存在します。それぞれの国が固有の歴史や社会構造を持つからこそ、市民社会のあり方や研究課題も多様になります。国際学会に参加することは、そうした多様性に直接触れる機会であり、異なる文化的文脈の中で研究を捉え直すことで、新たな視点や発想が生まれる契機となりました。

(Casa Gorordo Museum。筆者撮影)
学会参加の振り返り
研究者同士のコミュニケーションについて
修士課程の学生として、まだ専門分野における知識や理論的蓄積が十分ではなく、独自の見解を自信を持って提示できる段階に至っていないと感じる場面もありました。そのため、分野の第一線で活躍されている研究者の方々と深く議論することに対して、少なからず緊張やためらいを覚えました。一方で、同世代の若手研究者とも多く出会うことができました。異なる国の高等教育制度や研究環境について意見を交わし、それぞれがどのような学術の道を歩んで、どのような努力を重ねて研究に取り組んでいるのかを知ることができました。
実際、研究者という存在は本質的に思索を重ねる職業であり、自身の考えを他者と共有することを前向きに捉える方が多いという印象があります。最近関心を持っているテーマや新たな考えについて積極的に語り合う姿勢は自然なものであり、必ずしも相手の負担になるものではないと感じました。また、多くの先輩研究者の方々は非常に開放的で包摂的であり、若手研究者の未熟な見方にも真摯に耳を傾け、温かく励ましてくださいました。その姿勢に触れたことで、過度に緊張する必要はなく、むしろ積極的に対話の機会を活用することが重要であると学びました。
今後は、学会のスケジュールを事前に確認し、関心のあるセッションや登壇者の研究背景をあらかじめ調べておくことの重要性を意識したいと考えています。特に強い関心を持った研究者については、最近の論文を読み、研究方向を理解した上で、可能であれば事前にメールでコーヒーブレイクの時間をお願いするなど、主体的にコミュニケーションの機会を創出していきたいと思います。
進路について
修士学生として、今回の学会参加は、自身が本当に専門分野を愛し、研究という営みに向き合い続けたいのかを改めて問い直す機会ともなりました。将来的に博士課程へ進学し、特定の研究領域をさらに深く探究する可能性についても、より現実的に考える契機となりました。
同時に、文系研究者として、自身の研究がいかにして社会に対してより大きな意義を持ち得るのかについて、常に考えてきました。また、学界の外という進路において、自身の専門性をどのように活かし、専門領域にどのような形で貢献できるのかについても思索を重ねてきました。学会に参加することで、アカデミア以外にも多様な発展の道があることを知り、将来の進路についてより広い視野から考える契機ともなりました。今後も、自身の研究が持つ可能性と社会的責任を意識しながら、主体的に進路を模索していきたいと考えています。
最後に
学会への参加を通じて、アカデミアとは閉じられた空間で一人完結する営みではないことを改めて実感しました。独創的な発想や主体的な問題意識はもちろん重要ですが、異なる視点との出会い、すなわち思想の交差こそが、新たなアイデアを生み出す土壌であると感じました。世界の同分野の研究者がどのような課題に取り組み、どのような理論や方法を用いているのかを知ることは、自身の研究において参考にすべきところを得る貴重な機会となります。また、自分一人では解決の糸口が見えなかった問題も、他者との対話を通じて思いがけない示唆を得られることがあります。研究とは孤独な営みであると同時に、本質的には対話的な営みでもあるのだと実感しました。
Google Scholarのトップページには「巨人の肩の上に立つ」という言葉が掲げられています。この「巨人」は、特定の偉大な研究者のみを指すものではないと感じます。どれほど著名な学者であっても、その思考には時代的・社会的・個人的な制約が存在します。学術において重要なのは、思想の独自性を保ちながらも、常に開かれた態度で他者の知見に学び続ける姿勢であると考えます。
「巨人」とは、数えきれないほど多くの研究者たちが積み重ねてきた思想や成果の総体なのではないでしょうか。そして学会に参加することは、互いの肩の上に立ち、それぞれの視座を共有しながら、より遠くを見渡す機会を与えてくれます。その意味で、私たちは皆、他者を支え、また他者に支えられる「巨人」のような存在であると感じました。
最後になりましたが、本大会への参加にあたり、日本NPO学会より若手研究者への国際学会参加支援助成金を頂きましたことに、心から御礼申し上げます。今回の国際学会への参加は、私にとって生涯にわたって心に残る大変貴重な経験となりました。
ISTR (2025) The 13th ISTR Asia-Pacific Regional Conference Report, (https://cdn.ymaws.com/www.istr.org/resource/resmgr/2025_cebu/2025_ap_conference_report.pdf).