The 16th ISTR International Conferenceに参加して

一栁 智子

2024年7月16日から19日にかけて、ベルギーのアントワープ大学で開催されたISTR(International Society for Third Sector Research) 16th International Conferenceに参加しました。Crisis After Crisis After…: What About the Third Sector? をテーマとする今大会は、1994年の第1回大会のハンガリー開催から30年の節目を迎え、ISTRの開催報告(ISTR 2024)によれば、65カ国以上から約600人の参加者が集まりました。本報告では、4日間にわたる今大会の中で特に印象に残った基調講演と私自身の研究発表について報告します。 

今大会で注目を集めた講演の一つは、Opening Plenaryにおけるミヒャエル・マイヤー(Michael Meyer)教授(ウィーン経済経営大学、非営利マネジメント研究所)の基調講演でした。マイヤー教授は、非営利組織の専門化(professionalization)とビジネスライク化(becoming business–like)に関するこれまでの研究動向を紹介したうえで、より最近の研究において、専門的なマネジメント(professional management)は非営利組織の社会的機能(societal functions)を損なうものではなく、専門的な組織運営(professional organizing)と民主的な関与(democratic engagement)の間には肯定的な関連性があるという見方が強まっていると提示しました(ISTR 2024)。この講演を受けて質疑応答では、「マネジリアリズム(managerialism)の負の側面に関する研究をどう捉えるべきか」「NPOの専門的マネジメントと民主的実践をどのように両立させるのか」などの質問が次々と寄せられ、この問題に関する関心の高さが窺えました。 

私自身は、The Third Sector, Sustainable Development, Climate Change, and Climate Justiceのセッションに参加し、ケニアの農村地域において長期にわたりフェアトレード事業を展開する社会的企業の事例研究について報告しました。本研究は、国際開発領域におけるサードセクター研究の一環であり、途上国農村社会における集団、資源、制度が社会的企業の形成と長期的な存続にどのように作用するかを分析しています。先進国中心の従来の社会的企業研究では看過されがちだった、ケニアの農村社会における地元の制度や社会関係と社会的企業の関係を考察することで、社会的企業の形成過程と長期的な存続要因を明らかにしました。モデレーターや会場からは、「組織の持続可能性とは何を指すのか」「コミュニティに焦点を当てているが、互酬性についてどのように捉えているか」「事例の組織を支援している先進国のフェアトレード企業間の連携はあるのか」といった質問やコメントをいただきました。現在、いただいたコメントをもとに、本発表の内容を論文にまとめています。 
 
また、Meet the Authorと呼ばれる自書を紹介するイベントにも参加しました。日本語の書籍ということもあり、当初は参加する予定はなかったのですが、ISTRのスタッフからの勧めを受け、英文で概要をまとめた資料を作成し参加しました。他の著者の方々と直接お話しすることができ、大変貴重な経験となりました。 

今大会への参加にあたり、日本NPO学会2024年度若手研究者への国際学会参加支援助成金を受けました。学会の皆様のご支援に対し、心から御礼申し上げます。 

ISTR (2024) Conference Report, ISTR 16th International Conference 16-19 JULY 2024 (https://www.istr.org/page/ISTR2024).

(写真左)16日に行われたOpenig Plenaryでのミヒャエル・マイヤー教授(ウィーン経済経営大学、非営利マネジメント研究所)による基調講演の様子。講演のテーマはManagement in Times of Crises: Selling your Soul or Boosting your Resilience? 筆者撮影。

(写真右)筆者が参加した Meet the Author イベント。Megan Haddock氏撮影。