市民的コモンズとは何か-理論と実践者との対話-

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書籍名:市民的コモンズとは何かー理論と実践者との対話-
著者:李 妍焱
発行日:2025年3月30日
出版社:株式会社ミネルヴァ書房
定価:3,500円+消費税

市民的コモンズとは何か – ミネルヴァ書房 ―人文・法経・教育・心理・福祉などを刊行する出版社

<著者の言葉>
 1994年に来日し、数々の運命的な出会いから「市民によるボランタリーな実践」をテーマとして研究と実践を積み重ねてきましたが、ここ数年では、90年代後半から2000年初頭にかけての時代に肌で感じ取った「市民の時代」の熱気がすっかり冷めてしまったように思います。NPO法人数も2017年ごろをピークにその後減少に転じ、構成メンバーの高齢化も目立ってきました。しかし同時に、ますます多くの市民的なセンスを豊かに持った方々が、組織や団体の実施主体にこだわることなく、地域で多彩なプロジェクトを展開していることに目を惹かれます。社会問題の解決や新しい公共を作るなどと語ることはないが、関わる人たちの暮らし方の一部となり、主張せずとも「市民による自然な、ボランタリーな社会実践」となっています。NPOという組織形態に着目するだけでは市民社会の次なる展開は描けないと気づき、組織的なミッションよりも、地域で展開される暮らし方の中での共有と共同にこそ、市民によるボトムアップの実践の根っこがあると考えるようになりました。
 それをいかなる概念装置で語れるのか。その概念こそが、市民社会を捉える新たなレンズになるのではないか。そのように思索を巡らせ、実践者との対話ベントやインタビュー調査を積み重ねた結果、「市民的コモンズ」という概念にたどり着きました。「コモンズ」は豊かな伝統を有し、世界的に研究の蓄積がある古い概念でありながら、未来に思いをはせる上で新たな発想と示唆を与えてくれる新しい概念でもあり、日本社会独自の強みを活かせるところも大いに魅力的だと感じます。しかし、あまりにも多義的に用いられているという現状があります。
 本書『市民的コモンズとは何か-理論と実践者との対話-』は、市民的コモンズ概念の明確化を目的とし、日本社会で次なる市民社会論の枠組みを構築していくための第一歩となるように書いたものです。コモンズ研究の「成果」というよりも、市民的コモンズ概念の成立の「宣言」という位置づけであり、進む方向を示す旗印のようなものです。これからが、この旗印を掲げた調査研究の本番となります。引き続き皆様のお力を借りながら進めてまいります。「市民によるボランタリーな実践」の世界を豊かに描き出し、示すことができる市民社会論の次なるステージを迎えたいと思います。