介護サービスと市場原理

書籍の紹介です。

書名:介護サービスと市場原理:効率化・質と市民社会のジレンマ

金谷 信子 著

ISBN:978-4-87259-744-8

出版社:大阪大学出版会

2022年2月発行

概要:

本書は、準市場化された日本の介護保険サービスを対象として、訪問介護、グループホーム、デイサービス等に関するデータ分析を通じ、その市場化が及ぼした影響を検証したものである。 まず序章では、研究背景・目的等をはじめとして、介護保険制度、New Public Management、非営利事業者、準市場等について解説が行われている。第1章では、介護保険制度の概要説明、および介護サービスの需要増大、介護報酬、非営利事業者、営利事業者等の特徴づけがなされている。第2章では、介護保険サービス市場における非営利事業者に着目し、営利事業との対比から、市場の特徴や地域性によって、シェアが異なることを論じている。第3章は、広島県内の訪問介護事業所におけるクリームスキミングに関する分析が行われ、営利事業者は非営利事業者(の一部)よりもその志向が強いことを明らかにしている。第4章では、グループホームにおける非営利事業者と営利事業者の経営戦略的な行動の違いについて検討がなされている。第5章では、サービスの質とクリームスキミングに関する営利事業者と非営利事業との相違に関して分析がなされ、後者の方がサービスの質が高い傾向があることを明らかにしている。第6章では、サービスの効率性と効果を焦点として、グループホームにおける生産効率、規模の経済等が検討されている。第7章では、特定非営利活動法人とその他の法人との比較を行い、前者はサービスの質を確保できているとはいえない実態を明らかにしている。そして、第8章にてまとめが行われ、非営利事業者と営利事業者の相違について整理が行われている。本書は、介護サービスを提供する法人形態のあり方を考える上で、多くの示唆に富むものである。

https://osaka-up.or.jp/books/ISBN978-4-87259-744-8.html

利用者、提供者にとって良質なサービスの維持には何が必要なのだろうか。2000(平成12)年4月に施行さた介護保険制度には準市場が取り入れられ、効率的に質の高い介護サービスを供給することを目的に、公的、非営利、営利の多様な事業者が参入して競争することとなった。本書は20年以上を経た日本の介護保険サービス事業の導入から最近までの非営利組織と営利組織の行動を分析し示したものである。利用者にとって良い介護サービスとは、何を指標に比較し判断できるのか。地域差のある市場、経営主体別にみたとき、営利法人と単一カテゴリーとして扱うことが難しい非営利法人のサービスの質にはどのような差と要因があるのか。また、事業者のクリームスキミング志向の行動は起きているのか。利用者数に影響する要因は何か。複数の要因とサービスの質との関連性を明らかにし、効率化のメリットとデメリット、介護サービス市場の展望を示した。事業者の利益拡大のなかで利用者への公平性・公正性を保ち、サービスの質を落とさないために、また、介護職員の労働環境を守ることの意義も分析している。介護保険制度という公共サービスにおいて、非営利組織と営利組織が競争するという仕組みがどのように機能してきたのか、現場が参考にすべき研究成果である。

目次:

序章 公共サービスの大競争時代
第1章 介護保険サービス市場と様々な参入事業者の現状
第2章 介護保険サービス市場における非営利事業者のシェア
第3章 準市場・訪問介護サービスにおける非営利・営利事業者の行動比較―訪問介護事業所の場合
第4章 準市場における非営利・営利事業者の比較―グループホームの場合
第5章 介護保険サービス市場における経営主体別事業者のパフォーマンス―質の相違とクリームスキミングに関する実証分析
第6章 介護保険サービス事業の効率性と効果性―規模の効果・範囲の効果を中心に
第7章 介護保険制度と市民社会―介護系NPO のプレゼンス
第8章 介護保険サービス市場の展望

文責:小田切康彦(徳島大学)