匿名他者への贈与と想像力の社会学

書籍のご紹介です。

書籍名:匿名他者への贈与と想像力の社会学:献血をボランタリー行為として読み解く
著者名:吉武 由彩
出版年月日:2023/03/31
出版社:ミネルヴァ書房
定価:5,500円(本体5,000円+税)

概要:

本書は、「献血」を匿名他者への贈与として位置づけ、そうした贈与がいかにしてなされているのか、を社会学的観点から実証分析を行ったものである。まず序章にて、 ボランタリー行為の一つとして献血を捉える背景と問題意識、分析方法等が提示される。第1章では、 献血研究について整理が行われ、献血における匿名性や想像力の涵養が重要であることが示される。第2章では、日本における血液事業と献血推進政策が概観され、血液事業の実施体制や採血事業者、献血推進政策等の変遷が整理されている。第3章では、国内外における献血研究のサーベイにより、「受血者」の存在が贈与先への想像力を刺激するという論点が導出される。第4章では、献血の規定要因や多回数献血の規定要因についての分析が行われ、献血者の属性が明らかにされる。第5章では、献血ルームにおける多回数献血者75人へのインタビュー調査に基づき分析が行われ、受血者不在であっても献血行動が起こることが示される。第6章では、受血者不在の献血者へのインタビュー調査結果に基づき、その初回献血動機や献血継続動機が分析される。続く第7章でも、受血者不在に対する生活史調査によって、いかにして献血者になったのか、彼らがどのように献血を捉えているのか、といった分析が行われている。第8章では、献血における互酬性という論点が提示され、採血事業
者に対する信頼によって献血が促進される実態が描写されている。そして、第9章では、何らかの生きづらさを抱えた献血者に着目し、彼らが献血を通じた献血事業者との顔の見えるコミットメントによって、そのやりがいや肯定感を高めていることを示している。本書は、従来の研究では取り扱われてこなかった受血者不在の意識・行動を鮮明に描いた意欲作である。

匿名他者への贈与と想像力の社会学:献血をボランタリー行為として読み解く

私たちの生活は匿名他者との非対面的な関係性によっても支えられている。献血においては、提供された血液は顔も名前も知らない他者のもとへ届けられ、それが必要な人々の生活を支えている。こうした匿名他者への贈与はいかにしてなされているのか。これまでは家族や友人に血液製剤を使用した人がいる場合に献血が促されると指摘されてきた。これに対して本書では、家族や友人に血液製剤を使用した人がいない場合に、なぜ人々は血液を提供するのかを論ずる。

目次:

まえがき
序 章 献血をボランタリー行為として読み解く

第Ⅰ部 献血を問うこと
第1章 匿名他者への贈与と想像力の社会学に向けて
第2章 日本における血液事業と献血推進政策
第3章 献血はどのように捉えられてきたか――先行研究の整理

第Ⅱ部 献血者とは誰か
第4章 誰が献血するのか――献血の計量的分析
第5章 多回数献血者と想像力――受血者の存在と献血

第Ⅲ部 受血者不在への着目
第6章 受血者不在の場合における献血動機の実態――消極的献血層の動機変化
第7章 献血者の生活史
第8章 献血を重ねることと互酬性の予期
第9章 献血を重ねることと生きづらさ

終 章 匿名他者への贈与を支えるもの

文責:小田切康彦(徳島大学)