第1回 日本NPO学会賞受賞作品

林雄二郎賞

  • 『NPO政策の理論と展開』初谷 勇著 大阪大学出版会(2001年2月刊)

研究奨励賞

  • 『NPO法人の税務(新版)』 赤塚 和俊著 花伝社(2001年12月刊)
  • 『ボランタリー活動の成立と展開 日本と中国におけるボランタリー・セクターの論理と可能性』 李 妍ヤン著 ミネルヴァ書房(2002年3月刊)
  • 『「政策連携」の時代』 上山 信一著 日本評論社(2002年11月刊)

審査委員会特別賞

  • 『天皇と赤十字』 オリーヴ・チェックランド著 工藤教和訳 法政大学出版局(2002年10月刊)

総評

選考委員長 今田忠

今回は第1回の学会賞で、今後の賞の方向付けを示すものになるので、賞の性格についての共通の認識をもつことから議論を始めた。学会賞の規定に「一層の研鑚を奨励することを目的とする」とあるところから、比較的研究歴の浅い著者を重点的に選定することにした。但しNPO論は新しい分野であるので、他の分野の研究者・実務家がNPOを取り上げた場合は研究歴が浅いとみなすことにした。林賞については厳しく選考し「該当者無し」があっても良いのではないかとの議論も行われたが、賞の奨励的な性格から相対的に優れている作品を林賞に選定することにした。

各書評

『NPO政策の理論と展開』初谷 勇著 大阪大学出版会(2001年2月刊)

林賞に選定された初谷勇著『NPO政策の理論と展開』(大阪大学出版会、2001/2)は、NPO法制定の過程を綿密に追った実証研究が評価された。本書はNPO法を論ずるにあたり民法の制定過程から解き起こしNPO政策形成の形成過程の分析が丁寧になされている。また著者が行政職員であるという立場もあり行政の視点からの分析も加えられており内容に厚味を与えている。資料のレファレンスが行き届いており、文献集としての価値も高く、今後の研究の大きな土台になる。ただ著者としての理論の提示が明確でないという意見も出されており、今後の研鑚を期待したい。

『ボランタリー活動の成立と展開 日本と中国におけるボランタリー・セクターの論理と可能性』 李 妍ヤン著 ミネルヴァ書房(2002年3月刊)

奨励賞の対象となった李妍ヤン著『ボランタリー活動の成立と展開 日本と中国におけるボランタリー・セクターの論理と可能性』(ミネルヴァ書房、2002/03)は書名のとおり日中ボランタリー・セクターの比較をヒアリング調査による知見に基づき理論的考察がなされている労作である。ただ完成度にはかなり遠い。例えば使っている資料がとくに新しさが見出せない、中国のボランタリー・セクターについての調査が不十分で、日中の比較になっているとは言いがたい等々である。これらの問題点については著者も自覚しており、今後の課題として提示している。若い留学生の論文であり奨励賞に値するものである。

『『NPO法人の税務(新版)』 赤塚 和俊著 花伝社(2001年12月刊)

赤塚和俊著『NPO法人の税務(新版)』(花伝社、2002/12)は具体的な事例を引いてNPOが現実に直面している税務上の諸問題を解説しており、実務書として大変優れている。しかも単なるノウハウものではなく現在議論の対象になっている税制を巡る論点を整理し、政策論議の主題にもなり得る著者独自の見解も述べられている。このような信頼出来る専門家にNPOについて研究を深めて頂く意味から奨励賞の対象とした。

『「政策連携」の時代』 上山 信一著 日本評論社(2002年11月刊)

上山信一著『「政策連携」の時代~地域・自治体・NPOのパートナーシップ』(日本評論社、2002/11)も他のジャンルの専門家がNPOの研究を深めていくことを期待して奨励賞とした。著者は政策評価の分野での実績を積んできているが、今回は地域・自治体・NPOのパートナーシップについて内外の事例に基づき提言を行っている。行政とNPOの協働が流行のように取り沙汰されている中で、NPOの位置付けを政策論として取り上げている点を評価し、日本NPO学会として歓迎するという意味から奨励賞とした。

『天皇と赤十字』 オリーヴ・チェックランド著 工藤教和訳 法政大学出版局(2002年10月刊)

評価に苦しんだのがオリーヴ・チェックランド著・工藤教和訳『天皇と赤十字~日本の人道主義100年』(法政大学出版局、2002/10)である。「天皇と赤十字」についてイデオロギーに惑わされず、日本人では書き難い視点から歴史的な記述をしている。また日本赤十字社を国際的文脈からとらえ、海外の資料に基づいて分析している等大変刺激的であり、興味があり内容も大変優れているということについては意見が一致した。しかし赤十字を日本のNPOとしてとらえる視点がまったくないこと、今後NPOについての研究を進めることは期待出来ないこと等から学会賞としては見送らざるを得なかった。ただ日本NPO学会として本書を高く評価しているというメッセージを伝える意味で、学会賞の規定にはないが、審査委員会特別賞を授与することにした。

その他の作品

上記、賞の対象となった5点の他に審査委員会で検討したものについてふれておきたい。原田勝広著『「こころざし」は国境を越えて~NGOが日本を変える』(日本経済新聞社、2001/5)は現場に密着して丹念に流れを追っている点は高く評価されたが、分析や提言に物足りなさが残り、見送りとなった。下河辺淳監修、根本博編著『ボランタリー経済と企業~日本企業の再生はなるか?』(日本評論社、2002/09)は一流の執筆者が分かりやすく一般の読者向けに書いたもので、学生のゼミには手ごろであるし、実務家にも是非読んでほしいものだが、学会賞の対象とする顔ぶれではないということで見送りとした。辻中豊編著『現代日本の市民社会・利益団体』(木鐸社、2002/4)は大変大掛かりの調査で、興味のあるものとして評価は高かったが、調査の途中ということもあり、また、やや分析面が不十分であるとの指摘もあり、今回は見送りにした。