第18回日本NPO学会賞受賞作品

林雄二郎賞

  • 該当なし

優秀賞

  • 『環境ガバナンスとNGOの社会学:生物多様性政策におけるパートナーシップの展開』
    藤田研二郎(著) ナカニシヤ出版(2019)
  • 『避難と支援―埼玉県における広域避難者支援のローカルガバナンス』
    西城戸誠・原田峻(著) 新泉社(2019)

奨励賞

  • 『ケニアにおける営利型社会的企業ハニー・ケア・アフリカ社の営利企業化とその主要因』
    一栁智子(著) 名古屋大学博士論文(2019)

選考委員会特別賞

  • 『Black Wave: How Networks and Governance Shaped Japan's 3/11 Disasters』
    Daniel P. Aldrich(著) The University of Chicago Press (2019)

1 選考経過と結果

学会賞選考委員会委員長 雨森 孝悦/ 2020年6月6日

第18回日本NPO学会賞には合計9点の応募があり、応募資格を点検した上でそのすべてを候補作品とした。各作品につき3人の査読結果を集約し、選考委員会において審査を行った。その結果、日本NPO学会賞林雄二郎賞は該当なしとし、優秀賞2点、奨励賞1点、選考委員会特別賞1点を選定した。

2 受賞作の推薦理由

受賞作の選定理由の概略は以下の通りである。なお同一の賞が複数の作品に授与されている場合には、応募の受付順の紹介とした。

日本NPO学会賞優秀賞には、藤田研二郎(著)『環境ガバナンスとNGOの社会学: 生物多様性政策におけるパートナーシップ の展開』ナカニシヤ出版、2019年3月刊行、が選ばれた。本作品は外来種の駆除や生物多様性条約締約国会議というローカルおよびグローバルな政策提言活動を事例として取り上げ、NGO相互間、また異なるセクターとの連携や協働の枠組みに基づいて手堅く分析している。2010年代以後、環境保全に限らず、市民運動的な取り組みの勢いが低下する中で、社会運動論的な研究は貴重であり、記述のバランスもとれている。事例のさらなる掘り下げがあれば、なおよかったと思われる。

同じく優秀賞に選ばれたのが、西城戸誠・原田峻(著)『避難と支援―埼玉県における広域避難者支援のローカルガバナンス』新泉社、2019年2月刊行、である。この作品は東日本大震災における広域避難者支援について、埼玉県での7年半におよぶフィールドワークをもとに、ローカルガバナンスの視点から詳細に記述・分析している。「帰りたいけど帰れない」状態の人をいかに支えるかという難しい課題に真摯に向き合いつつ、メゾレベルでの広域避難者支援の全体像を描き出している点で高く評価される。ただ、NPOの活動や役割に直接触れた記述はあまり多くなく、林賞の対象とはならなかった。

奨励賞の作品として選ばれたのは、一栁智子(著)『ケニアにおける営利型社会的企業ハニー・ケア・アフリカ社の営利企業化とその主要因』(2019年)である。この博士論文は社会的企業の長期的変化を追った数少ない事例研究だという点で貴重である。一時は代表的な社会的企業としてもてはやされた組織が、数度にわたるビジネス・モデルの変更を経て一般的な営利企業となってしまう過程が克明に描かれている。先行研究や用語、概念は丁寧に吟味されており、得られた教訓や今後に向けた示唆も興味深い。ただ一事例の分析だったためもあって、成否条件の特定にまでは至っていない。ぜひ次作に期待したい。

選考委員会特別賞には、Daniel P. Aldrich(著)『Black Wave: How Networks and Governance Shaped Japan's 3/11 Disasters, The University of Chicago Press, 2019』が選ばれた。著者は東日本大震災の三重の惨事にも関わらず、なぜ相対的多くの人が生き残ったのか、自治体によってなぜ生存率や復興過程の差が大きかったのかという疑問から出発し、ネットワーク(ソーシャル・キャピタル)とガバナンスが最も重要な要素だったと結論づけている。特定の分析手法にあえて頼らず、包括的に論じているこの書物は、当事者としての住民や自治体の声を大事にしつつ、この大災害の全体像を明快に描き出している。快著であるが、日本の災害関連研究の視点から見て深さの点で物足りないという指摘や、NPO研究としての貢献という点でどうかという指摘があったため、特別賞を授与することになった。

3 受賞作以外の応募作品について

受賞作以外の5作品を以下、応募受付順に紹介する。それぞれに優れた点のある力作ぞろいであったが、選考委員会全体での協議の結果、今回は受賞に至らなかった。

Ken Aoo(著)『Social Innovation Scaling Process in East Asia: Bridging the gaps between stakeholders』大学教育出版, 2019
社会的イノベーションがマクロ的なインパクトをもつためには、一般に取組みのスケール拡大が必要とされる。本書で青尾謙氏は、これまで理論的に示されてきたスケール拡大のさまざまな道筋を整理した上で、アジア4カ国における実際の過程をメタ分析によって追跡している。意欲的で興味深い研究であるが、事例や注目する変数の選択についてはやや説明が不足していると思われ、残念ながら選外となった。

Rikio Kimura (著)『Transformative Learning through An NGO’s Rights-based Approach in Cambodia: A Multi-scalar Analysis”, Compare: A Journal of Comparative and International Education』Routledge, 2019
木村力央氏のこの論文は、NGOの権利基盤型のアプローチにより、強権的な体制の下でも農村住民が権利主張を行う空間をある程度確保できることを事例的に示したものである。農民も行政スタッフも学習・変容していく過程の記述は、社会運動研究として優れた面をもつ。ただ主な理論的枠組みとして採用されている批判的実在論の説明が短く、読み手にとって現場で起きたことを理論的に理解する上では困難が伴う。また、組織=メゾレベルの分析をより精緻に行ってほしかった点も指摘され、惜しくも選外となった。

兵頭和花子(著)『非営利組織における情報開示―英国チャリティ会計からの示唆』
情報開示は非営利組織の信頼を確保する上で重要なポイントである。この著書は、副題にあるように英国におけるチャリティ会計の特徴について、チャリティを支える法律・制度も視野に収めつつ論じている。著者は英国の会計制度について詳しく論じており、その歴史的な変遷がうかがえて興味深い。ただ海外の先行研究への言及が乏しく、また情報開示の観点から日本の非営利会計制度をどのように変えていくべきかについて、踏み込んだ示唆が欲しかったところである。

坂本治也・秦正樹・梶原晶(著)『NPO・市民活動団体への参加はなぜ増えないのか―「政治性忌避」仮説の検証』
この論文は、参加が増えないという市民社会にとって重要な問題を扱っている。理由として、NPO等のもつ政治性が避けられているからではないかという仮説は興味深く、実験手的な手法を用いた調査、分析も手堅くなされている。著者たちは仮説が検証されたとするが、参加が増えない理由として党派性イメージが1つの要因となるとしても、その相対的な重みについては別途検証が必要だと思われる。

後房雄・坂本治也(編)『現代日本の市民社会: サードセクター調査による実証分析』
この著書は、日本の市民社会あるいはサードセクターの実態について、量的調査をもとにした人的資源、財務状況の分析を行うとともに、政治・行政との関係性やこのセクターが直面している課題を論じている。個々の章は興味深く、示唆に富むが、著書としての統一感という点では物足りなさが残る点と、過去の受賞作品(第16回学会賞林賞)と内容や執筆者が共通する部分があることを勘案し選外とした。