第6回 日本NPO学会賞受賞作品

林雄二郎賞

  • 該当なし

研究奨励賞

  • 該当なし

審査委員会特別賞

  • 『テキストブックNPO』 雨森 孝悦著 東洋経済新報社 (2007年6月刊)

総評

選考委員長 青木利元

今回の学会賞には、自薦・他薦を合わせて13の論文の応募があり、選考委員会では予備審査及び本審査での検討・論議の結果、日本NPO学会審査員会特別賞として一編を選定した。

概評

今回、林賞ならびに奨励賞に該当する論文を見出すことができなかった。今年度は、昨年度に比べ応募論文の数が5つほど少なかった。こうした状況で、選考委員会が候補作に選んだのは5篇であった。審査委員会特別賞を受賞した作品をのぞく4編のうち、2篇は共同執筆による論文で、残りの2つは個人がまとめた論文であった。共同執筆の論文に共通して見られた問題点は、各章が分担して書かれており、それぞれの内容の水準にバラツキがあることと、個々の論文は興味深い内容を持つものがあるものの、全体を通じた一本の強い主調が感じられず、研究としての総合力・構成力に欠ける恨みがあることであった。個人の執筆による論文のひとつについては、やはり個々の章はよくできているが、各章が独立した別個の内容であること、さらにすべての章を統合する結論の章がないことが指摘された。共同執筆か単独執筆かによる問題点の特徴の違いは当然として、双方に共通する課題点が今年はかなりはっきりと浮き彫りにされたようである。

それは、各章を串刺しにする一貫したテーマの追求が弱く、論考を起承転結のメリハリをつけてまとめあげる構成力にもう一歩、二歩の感があるということである。そのため、選考委員会はそれぞれの論文が心血を注いだ研究であることを十分に認識しながらも、受賞作として選出することを躊躇せざるを得なかった。その中で、優れた研究論文というよりは、NPOに関する知見を過不足なく要領よくまとめ、完成度の高い教本・教科書として、『テキストブックNPO』(雨森孝悦著、東洋経済新報社)を、満場一致で日本NPO学会審査員会特別賞に選出した。

各書評

『テキストブックNPO』 雨森 孝悦著 東洋経済新報社 (2007年6月刊)

雨森孝悦著『テキストブックNPO』(東洋経済新報社)は、NPOに関する現時点での知見をバランスよく整理し構成した教本である。教本すなわちテキストブックとして備えるべき要件は、対象となっている領域の知見のスペクトロムが均衡の取れた構成に整理されていること、内容が普遍妥当性を持っていて偏奇や逸脱がないこと、そして読みやすく文章がよく練れていることであろう。本著は、これらの要件をほとんど満たしており、選考委員の間では、大学の学部レベルやNPO実務家向けの研修などに使われることが期待される内容の優れたテキストが出現したことを歓迎する声も聞かれた。本著は、対象分野の本質をえぐり、掴み取った命題から現象を解明しようとする研究論文ではないので、選考委員会は、研究論文に対して授与してきた林賞ならびに奨励賞ではなく、すぐれた教本を作り上げた功績に対して『NPO学会審査会員特別賞』を贈呈することとした。

その他の作品
  • 『福祉のパブリック・プライベート・パートナーシップ』 金谷 信子著 (日本評論社)
    真摯な研究態度に光るものがあった。
  • 『金融NPO-新しいお金の流れを作る-』 藤井 良広著 (岩波新書)
    国内外の動きを丹念に取材している点で読み応えを感じさせた。
  • 『NPO就労発展への道筋』独立行政法人労働政策研究・研修機構著 労働政策研究報告書No82
    3回に及ぶ同一母集団のNPO法人調査は、NPO就労実態に深く切り込んでおり、説得力があった。
  • 『世界のシティズンシップ教育』嶺井 明子編著(東信社)
    未完ながらシティズンシップ教育をNPOのソフトなインフラとして捕らえようとした努力を多としたい。

次年度は、林賞をうかがうような意欲的で内容豊かな論文が数多く寄せられることを期待したい。