第14回 日本NPO学会賞受賞作品

林雄二郎賞

  • 『概説市民社会論』 今田 忠著(岡本 仁宏補訂) 関西学院大学出版会(2014)

優秀賞

  • 『市民社会セクターの可能性: 110年ぶりの大改革の成果と課題』 岡本 仁宏編著 関西学院大学出版会(2015)
  • 『英国チャリティ: その変容と日本への示唆』 (公財)公益法人協会編 弘文堂(2015)
  • 『持続可能性とイノベーションの統合報告: 非財務情報開示のダイナミクスと信頼性』 越智 信仁著 日本評論社(2015)

審査委員会特別賞

  • 該当なし

総評

選考委員長 田中敬文/ 2016年3月5日

日本NPO学会賞は、2012年に逝去された林雄二郎初代会長のご寄付により創設された賞である。14回目を迎えた今回、10点の応募作品について10人の委員による厳正な審査を経て、林雄二郎賞1点、優秀賞3点が選出された。審査委員会特別賞は該当なしであった。

今回見事に林雄二郎賞受賞の栄冠に輝いたのは、今田忠著(岡本仁宏補訂)『概説市民社会論』関西学院大学出版会である。

同書は、著者のこれまで研究と実践の集大成であり、300頁を超える大変な労作である。市民社会の歴史的経緯、哲学と原理、フィランソロピーとボランティア、市民社会組織の現状、社会的経済と社会的企業、パブリックとコモンズ: 公と共、市民社会と政府・企業など多岐にわたる内容が濃縮ジュースのように詰め込まれている。平易な記述はスポーツ飲料のように吸収がよく、市民社会セクターを理解するうえではこの上ない一冊であり、その活用範囲はとても広い。脚注も充実しており、初心者のみならず、得られる知見は多い。ここ数年の記述が少ないとも思えるが、それは後に続く研究者に託された使命と捉えるべきであろう。

優秀賞3点のうちのひとつ、岡本仁宏編著『市民社会セクターの可能性: 110年ぶりの大改革の成果と課題』関西学院大学出版会は、日本NPO学会2014年大会での公益法人改革に関する2つのセッションでの報告を基にして、改革の経緯や運用状況、成果や残された課題、今後の展望などを包括的に述べた好著である。特に第2章の「制度改革の経緯」では実際の改革の動きをビビッドに知ることができる。さらには、認定NPO法人を含めた非営利法人制度の体系を再度見直す必要があることや、将来の非営利法人制度の統合についても議論されている。公益法人制度改革についての第一線の研究者や専門家が執筆しており示唆に富む内容となっている。

同じく優秀賞の(公財)公益法人協会編『英国チャリティ: その変容と日本への示唆』弘文堂は、副題の通り、日本の非営利セクターは本書から実に多くの示唆を得ることができる。例えば、本書は「第三者委員会」としてのチャリティ委員会がその独立性の担保をいかなる思想に求め、またどのような歴史的変遷を遂げてきたかについて詳述する。なかんずく、同委員会が政治的文脈、とりわけ政権与党との関係において微妙に揺れ動くその独立性や自律性をいかに確保してきたかに関する記述に注目したい。日本の公益法人制度などは、アメリカよりもむしろイギリスのチャリティ・チャリティ委員会間関係から多くのことを学んだり、倣ったりできるように思うからである。

同じく優秀賞の越智信仁著『持続可能性とイノベーションの統合報告: 非財務情報開示のダイナミクスと信頼性』日本評論社は、企業の社会的価値(持続可能性)と投資価値(イノベーション)の両者を適正に反映させた「統合報告」とはどういうものであるかを、非財務情報開示に焦点をあてて論じたもので、特にその統合のプロセスの実効性を担保するためにNPOの役割を強調している。社会における企業活動の側面から新たなNPOの機能を提唱している。企業統治論としてもNPO論としても興味深い視点を提供している。

その他、惜しくも賞を逃した書籍についても簡単にコメントしたい。
J.Defourny et al. Social Enterprise and the Third Sector, Routlege は、ヨーロッパにおけるソーシャル・ビジネスについて、EMESに集う研究者が中心となり、さまざまな視角から理論構築を試みた論集である。ソーシャル・ビジネスを本質的にハイブリッドな存在としてとらえ、厳密な基準よりも「理念型」を表す指標により実像に迫ろうとしている。

羅一慶著『ソーシャル・ビジネスの政策と実践: 韓国における社会的企業の挑戦』法律文化社は、韓国の社会的企業に関する制度的環境について、「ハイブリッド組織」「経路依存性」といった概念をキーワードとしながら述べている。社会的企業への期待の高まりは、官制ではない地域コミュニティの形成や地域再生が期待されているからだと見ている。

せんだい・みやぎNPOセンター編『蝸牛評伝: 加藤哲夫の遺したものと市民社会イノベーション』と『K-PROJECT: 加藤哲夫氏資料・デジタルアーカイブ目録』は、市民活動の先達、故・加藤哲夫氏の思想を後世に残すためのプロジェクトである。一つは彼の考えに影響を受けた団体の活動記録と代表的著作によりその思想と理念に迫り、もう一つは彼の著作、資料等の整理分類とアーカイブ目録である。

辻陽明著『新市民伝: NPOを担う人々』講談社は、故・辻陽明氏(朝日新聞記者)が生前、紙面で連載していたコラムを元同僚や知人がまとめたもので、現在非営利セクターで活躍する偉人が網羅的に紹介されている。

鈴木純著『経済システムの多元性と組織』頸草書房は、関係財の概念を導入し、非営利経済と社会関係、さらにはソーシャル・キャピタル概念を深化させている。関係財に関する本邦で初の丁寧な解説書である。

中嶋貴子著『非営利組織の財務構造と経営に関する実証分析』大阪大学大学院国際公共政策研究科博士論文は、特活法人の財務構造分析、自治体病院の財務構造分析及び東日本大震災寄附金のイン・アウトフロー分析から成る。開示資料が少なく、かつ不統一の中、独自の分析を試みている。

なお、現行の選考委員会は今期で2年の任期を終了する。委員は多忙な本務に加えて、学会賞の候補作を極めて短い期間に審査・選考しなければならなかった。新体制の執行部には、次期委員会が早急に動き出せるよう配慮を希望したい。

日本NPO学会は市民社会の発展に貢献することを使命としている。学会賞の授与は、その使命を地道に果たすひとつに過ぎない。次回も多くの著作の積極的な応募を期待したい。

書評担当

林雄二郎賞

『概説市民社会論』今田 忠著(岡本仁宏補訂) 関西学院大学出版会(2014)
(書評担当)椎野修平(日本NPOセンター)

優秀賞

『市民社会セクターの可能性: 110年ぶりの大改革の成果と課題』岡本 仁宏編著 関西学院大学出版会(2015)
(書評担当)片山信彦(ワールド・ビジョン・ジャパン)

優秀賞

『英国チャリティ: その変容と日本への示唆』(公財)公益法人協会編 弘文堂(2015)
(書評担当)樽見弘紀(北海学園大学)

優秀賞

『持続可能性とイノベーションの統合報告: 非財務情報開示のダイナミクスと信頼性』越智 信仁著 日本評論社(2015)
(書評担当)稲葉陽二(日本大学)