第15回 日本NPO学会賞受賞作品

林雄二郎賞

  • 『ボランティアを生みだすもの-利他の計量社会学-』 三谷 はるよ著 有斐閣(2016)

優秀賞

  • 該当なし

審査委員会特別賞

  • 該当なし

総評

選考委員長 新川達郎/ 2017年5月13日

日本NPO学会賞は故林雄二郎初代会長のご寄付により創設されたものであり、「日本を中心に活動する研究者および実践家の行うNPO・NGO・ボランティアなどに関する研究および実践報告、および海外の研究者および実践家が行う日本のNPO・NGO・ボランティアなどに関する書籍、報告書、論文等のうち、特に優れたものに対して「日本NPO学会賞」を授与」することを目的としている。

第15回を迎えた今年度は、2015年・2016年に刊行された作品を対象として募集を行ったところ8作品の応募があった。選考委員会による厳正な審査を経て、日本NPO学会賞林雄二郎賞に値すると考えられた1作品を選出した。優秀賞および審査委員会特別賞は、今回は該当なしとなった。

日本NPO学会賞林雄二郎賞を授賞することとなった作品は、三谷はるよ著『ボランティアを生みだすもの-利他の計量社会学-』(有斐閣)である。

三谷作品は、日本人のボランティア行動の生起メカニズムを、既存の資源理論、共感理論、宗教理論、社会化理論を踏まえて全国調査データを丁寧に分析し実証した上で、独自の統合理論を提案した意欲的な著作である。序章および8つの章からなり、序章から第2章までは研究の背景と方法、概念と分析モデルの提示を行い、NPO論としての位置付けを明確にする。第3章から第7章まではボランティア行動の経済的、社会心理的、宗教的、そして広義の教育環境的要因をめぐってそれぞれ定量的なデータの解析を行い、第8章で結果を踏まえた総合を試みる。形式的にもオーソドックスな手堅い研究による学術的な成果であるが、内容的にも新たな知見が加えられており、宗教(拡散的宗教性)や社会化エージェントの影響の研究は高く評価できるし、それらに基づくボランティア行動の「社会化モデル」という視点は今後の研究の発展にとって有益なものと考えられる。以上の内容を踏まえ、選考委員会としては全員一致で日本NPO学会賞にふさわしいとする審査結果を得ることができた。

応募のあった他の7つの作品も、それぞれに力作ぞろいであった。以下、簡単にではあるが、内容を紹介したい。

亀井省吾著『障碍者雇用と企業の持続的成長-事業における「活用」と「探索」の考察-』(学文社)は、企業経営における持続的な成長のために障害者雇用を通じてどのように事業を展開しているのかを分析し、企業の成長モデルを明らかにしようとする。そのためにアーキテクチャ概念、紐帯概念、メタ言語認知化概念、間身体性概念などの理論仮説に基づき、事業の「活用」と「探索」の実施と両立を検証し一般化を試みる。企業経営の中に埋め込まれるべき企業の社会性をめぐる今日的な論点を含んだ貴重な研究である。

伊藤正子・吉井美知子編著『原発輸出の欺瞞 日本とベトナム、「友好」関係の舞台裏』(明石書店)は、経済政策そしてエネルギー政策として両国政府で進められてきた原発輸出の構造と両国国民の経済的環境的負担を明らかにし、国民不在で原発輸出が進められる両国政府のもたれあいと、そこに見られる2重3重の差別と被差別の構図を鋭く指摘している。ベトナムへの輸出を通じて原発をめぐる政治、経済、社会そして環境の問題など今日的な論点を明らかにし、市民社会や民間非営利活動のあり方を問いかけてもいる。

神原ゆうこ著『デモクラシーという作法-スロヴァキア村落における体制転換後の民族誌-』(九州大学出版会)は、民主主義とその基盤である市民社会そしてそれを構成するアソシエーションが、スロヴァキア村落でどのように生まれ活動しているのか、それらが民主化との関係でどのように位置づけられるのかを、豊富な現地調査を基に人類学的に研究している。社会主義からの転換を経験した農村コミュニティの民主化経験のエスノブラフィーとして、またNPOの原点を明らかにする上でも貴重な研究である。

稲葉陽二・吉野諒三著『ソーシャル・キャピタルの世界:学術的有効性・政策的含意と統計・解析手法の検証』(叢書ソーシャル・キャピタル、第1巻、ミネルヴァ書房)は総論的位置づけにあり、第I部では、その概念定義の議論、影響等に関して従来の学問的批判に対し丁寧に反論し、筆者独自の定義、付加価値、有効性と課題を論じる。第Ⅱ部では、3つの全国調査を用いてソーシャル・キャピタルの測定および実証における有効性を確認するなど、統計的解析の視点から論じている。論点や分析などNPO研究への示唆も豊かである。

佐藤大吾監修、山本純子・佐々木周作編著『ぼくらがクラウドファンディングを使う理由-12プロジェクトの舞台裏-』(学芸出版社)は、寄付型と購入型のクラウドファンディングを取り上げプロジェクト推進者が導入を検討する基礎知識編の第1章、12の多様な事例に触れられる2章、行動経済学の視点でのまとめの3章で構成される。ボランタリーな側面や事業資金問題へのアプローチなど事例とその分析は、クラウドファンディング入門としてはよくできているし、NPO等にとって興味深い貴重な「参考書」である。

レスターM.サラモン著・小林立明訳『フィランソロピーのニューフロンティア-社会的インパクト投資の新たな手法と課題-』(ミネルヴァ書房)は、原著者による編著の序論部分を翻訳したもので、フィランソロピー金融の拡がりの「見取り図」が提示されており、世界的な新たな潮流を感じることができる。訳者解題では、特にアメリカにおける非営利セクターの動向ならびに研究潮流の解説があり、ソーシャル・ファイナンス研究として、非営利セクターやフィランソロピー分野から又経済・金融分野からも興味深い内容となっている。

長坂寿久著『新市民革命入門——社会と関わり「くに」を変えるための公共哲学』(明石書店)は、日本を改革する公共哲学としての「公共圏」の回復、社会・経済システム改革のための政府・企業・NPOの三者の対等な議論と運営による国家システム(オランダモデル)の構築、そして今後のまちづくりのリローカリゼーション(地域回復)と地域内循環型経済を提案している。その中で市民がNPOをつくって活動する重要性を、豊富な国内外の事例や概念とともに提示しており、NPOに関する啓発書としても高く評価できる。