林雄二郎賞
- 『下から構築される中国-「中国的市民社会」のリアリティ』 李 妍焱(著) 明石書店(2018)
優秀賞
- 『ソーシャル・イノベーションを理論化する:切り拓かれる社会企業家の新たな実践』 高橋 勅徳・木村 隆之・石黒 督朗(著) 文眞堂(2018)
- 『米国高等教育の拡大する個人寄付』 福井 文威(著) 東信堂(2018)
奨励賞
- 該当なし
選考委員会特別賞
- 該当なし
1 選考経過と結果
学会賞選考委員長 雨森 孝悦/ 2019年6月2日
第17回日本NPO学会賞には合計11点の応募があり、そのすべてを候補作品とした。各作品につき3人の査読結果を持ち寄り、選考委員会で総合的に議論し審査を行った。その結果、日本NPO学会賞林雄二郎賞1点、優秀賞2点、合計3点を受賞作品とした。奨励賞、選考委員会特別賞は該当なしとした。
2 受賞作の推薦理由
受賞作の推薦理由の概略は以下の通りである。なお同一の賞に複数の作品が授賞されている場合には、応募の受付順の紹介とした。
日本NPO学会賞林雄二郎賞(林賞)には、「李 妍焱(著)『下から構築される中国―中国的市民社会のリアリティ』明石書店 2018年3月刊行」が選ばれた。李氏の作品は、「公益圏」と呼ばれる中国の市民社会について、制度、構造、主体などの観点から分析したものである。この作品は内外の多様な文献とネット上の議論を含む市民リーダー(公益人)の言説の分析を通じて、欧米や日本の市民社会とは違う特性を浮き彫りにしており、日本の市民セクターにとっても示唆に富む点で、林賞にふさわしい作品との高い評価を得た。
日本NPO学会優秀賞(優秀賞)には、「高橋 勅徳・木村 隆之・石黒 督朗(著)『ソーシャル・イノベーションを理論化する:切り拓かれる社会企業家の新たな実践』文眞堂 2018年9月刊行」が選ばれた。高橋・木村・石黒の各氏による作品は、経営学をベースに、行政学、社会学などの先行研究により、ソーシャル・イノベーションおよび社会起業家をめぐる議論の混乱を理論的に整理し、その理論によって複数の事例を分析したものである。共著ながら文脈に一貫性のある好著であるが、一部で評価が分かれたことから優秀賞とした。
同じく日本NPO学会優秀賞(優秀賞)には、「福井 文威(著)『米国高等教育の拡大する個人寄付』東信堂 2018年1月刊行」が選ばれた。福井氏の作品は、米国における高等教育への個人寄付の拡大要因を、政策、機関、経済動向などの影響に着目しつつ、膨大な一次資料の渉猟と綿密な統計分析により明らかにしている。研究書としては非常に高い水準にあるということでは選考委員の意見が一致した。しかし、非営利組織というよりも高等教育機関が分析の主な対象となっているため、非営利セクター研究への貢献という点を考えると、林賞には該当しないと判断され優秀賞とした。
3 受賞作以外の応募作品について
受賞作以外の8作品を以下に応募受付順に紹介する。それぞれに優れた点のある力作ぞろいであったが、選考委員会全体での協議の結果、今回は受賞に至らなかった
「横山 恵子(編著)、杉本 貴志・長谷川 伸・宮崎 慧(著) 『エシカル・アントレプレナーシップ:社会的企業・CSR・サスティナビリティの新展開』中央経済社 2018年9月刊行」は、「ソーシャル」という概念を「エシカル」に拡大し広範囲な活動を包摂する視点を提供した作品である。事例は興味深く、学生が本づくりに参加した教育的側面も評価できる。入門書として好適だといえる。
「越智 信仁(著)『社会的共通資本の外部性制御と情報開示ー統合報告・認証・監査のインセンティブ分析』日本評論社 2018年9月刊行」は、自然資本、社会関係資本や制度資本などの社会的共通資本に係る外部性問題を解決するために、情報開示を共通の分析枠組みとして使い、開示インセンティブの視点から横断的に論じている。既存の研究を見事に整理した力作であるが、地域社会益法人の認証についての議論以外は市民セクターと直接関連する記述が薄いのが惜しまれる。
「埴淵 知哉(編著)、近藤 克則・中谷 友樹・村田 陽平(著)『社会関係資本の地域分析』ナカニシヤ出版 2018年2月刊行」は、社会関係資本を「地域」に焦点化して分析した研究書である。社会関係資本の計量的測定に関して、人文地理学の知見を踏まえた興味深い問題提起を行っているが、市民活動、NPOへの示唆という点での物足りなさを指摘する声が複数あり、授賞に至らなかった。
「早瀬 昇(著)『「参加の力」が創る共生社会ー市民の共感・主体性をどう醸成するか』ミネルヴァ書房 2018年6月刊行」は、社会活動に参加することの重要性を、著者の長年の活動経験をもとに、具体的、多面的に論じている。かならずしも体系的ではないが、一般向けに楽しく、読みやすく書かれており、説得的である。
「岸田 眞代(著)『「協働」は対等で:証言で綴るパートナーシップ・サポートセンターの20年』風媒社 2018年7月刊行」は、NPOと企業の協働を長年にわたって推進してきた団体の軌跡について報告したものである。中間支援組織とそのリーダーの活動記録として貴重な1冊だと思われるが、系統だった記述になっているとはかならずしもいえない。
「風見正三・佐々木秀之(編著)『復興から学ぶ市民参加型のまちづくりー 中間支援とネットワーギングー』創成社 2018年12月刊行」は、東日本大震災における復旧・再生のまちづくりを、中間支援組織の観点からまとめたものである。復興まちづくりがうまくいった地域は、震災以前から市民参加型のまちづくりに取り組んでいたという指摘など、7年間の実践から得られた興味深い知見が述べられている。
「金川 幸司(編著)、岩瀬 智久・萩野 幸太郎・今井 良広・森 裕亮(著)『公共ガバナンス論―サードセクター・住民自治・コミュニティー』晃洋書房 2018年10月」は、日本社会においてガバナンス概念がどのように導入され、運用されているかを様々な事例を通して明らかにしようとした作品である。実務家とともに書かれただけあって、興味深い事例が紹介されている。地域レベルのガバナンスに焦点を当てながらサードセクターの役割を論じた点に特徴がある。
「佐々木 利廣(編著)、大阪NPOセンター(編)『地域協働のマネジメント』中央経済社 2018年6月刊行」は、地域で活躍する多様な組織が主役になったり脇役になったりしながら、うまくやっていけるように手綱をとる、という意味でマネジメントということばを使い、理論的枠組みを提示している。続く各章で興味深い事例がいくつか紹介されているが、序章で示した枠組みがかならずしも有機的に活用されていない点が惜しまれる。
年次大会優秀発表賞(第21回年次大会)
- 森瑞季「共働の中に存在する葛藤そして黙認を超えた承認についての考察―労働統合型社会的企業での参与観察とヒアリングから」
- 小嶋新・坂本治也・鬼本英太郎「兵庫県における一般社団法人とNPO法人の実態調査からの考察」